変異種に関する噂

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滞仏日記「変異種に関する恐ろしい噂が出回るパリ、超ビビる父ちゃん」Posted on 2021/01/07辻 仁成 作家 パリ

某月某日、「南アの変異種は感染力がものすごくて、若い子たちを媒介にして急速に拡大していて、ちっとも弱毒化していない。死者は増え続けるだろう」という噂がここのところあちこちから聞こえてくる。
ここまで罹らず何とか持ちこたえた父ちゃんだけど、年齢的にもやっぱりちょっと怖くなって、前に免疫力の取材に応じてくれえた大手病院で働く免疫学のインターン、シモン・ルドヴィック君に何か安心材料を貰おうと思って、電話をかけてみた。
「やあ、元気? 実はね、今日、電話したのは他でもないんだけど、最近、英国の変異種が超話題じゃない? で、世界中に広がってるからさ。それが怖くてね」
シモン君は漫画オタクで、一応、日本語も話せる。ぼくも一応仏語が話せるので(?)、日仏の言語を交えながら、突っ込んだ話し、となった。
「辻さん、すでに、市中感染は始まっていると思います」
「マジ? 市中感染?」

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「ぼくが勤務する病院の先生たちは、相当、警戒していますよ」
「それは、嫌だ~」
「英国からの変異種と南アからのとがあるんですけど、南アのはちょっとてこずりそうだ、とぼくの指導教授は言ってます」
「感染力が猛烈に高くて、若年層に増えてるって噂だけど」
シモン君が、感染力は凄いです、とあっさり認めた。
「若年層で広がっても、若者はあまり重症化しないので、その親とか、周囲の大人にどんどん感染させていくわけです。それが怖いですよね」
「怖い」
ぼくは息子の顔が頭を過ぎってしまった。あいつが、怖い!
「他になんかある?」
「明るい噂と暗い噂が両方出回っていて、ぼくらも、どっちを信じていいのか、悩んでるところですけど、ムッシュ、どっちがいいすか?」
「どっちって? あ、いや、とりあえず暗い方を聞こうかな。最悪を先に知っておいた方が、心積もりができるし」
「なるほど、そういう考え方はいいと思います。このコロナに関してはネガティブな考え優先で挑んでください。そのほかの人生はすべてポジティブでいいですが、ことコロナに関してはポジティブ過ぎると感染します。相手はウイルスですから、必要以上の用心が大事」
「確かに、シモン、凄い、勉強になったよ」
「よかった。じゃあ、暗いのから。実は、せっかくできたワクチンが効果的に作用する部位が変異しているから、ワクチンが無駄にならないか、と新しい懸念がでています」
「ということは、あんなに超特急で開発したワクチンが無駄になるって、可能性があるってこと?」
「ウイ」
「そんな~。じゃあ、いい方の噂は?」

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「逆の意見で、ある程度効果はみられる、という意見です。これがいいニュース。特に今日、南アの科学者らが、そう発表しています。でも、科学者によって意見が割れてるのも事実。英国と南アの科学者たちも、もちろん、フランスの科学者もまだ、統一見解がない。すべては可能性がある、ない、の段階です。今のところ」
「君はどっち?」
「ぼくはまだインターンの身だから、当てにならないですよ。でも、結構、怖い意見を言う先生もいます。知りたいですか?」
「もちろん。ぼくはネガティブな人間だからね」
「じゃあ、言いますけど、サンタントワンヌ病院のカリンヌ・ラコンブ先生が昨日、」
「あ、知ってる。美人な先生だよね」
「ムッシュ、それはどうでもいいでしょ?」
「えへへ」
「カリンヌが言うには、いいですか? フランスで第3波はもう始まっているし、大拡大は免れないと。月曜日一日の感染者数は4000人だったのに、水曜2万5千人の感染者でしたからね、月曜日だからというのを差し引いても、単純に先週の倍で、これはクリスマスなど年末年始の結果です。で、変異種は現在、フランスで2、30人発見されていますけど、カリンヌはそれは氷山の一角だと断言。市中感染が始まっている、と恐ろしいことをおっしゃっていました。で、変異種というのは感染した人の体内でこれまでのウイルスと比べものにならない速度でウイルスが猛烈に増殖するんです。だから、マスクを全員がしっかりと付けておくことが大事、と先生は言っています。もはや家の中でもです。変異株がどれほど、恐ろしいのか、誰にもまだ分かってないのです」
「・・・」
「カリンヌ曰く、10日後の世界が怖い、フランスの状況が怖い、と言っています。これは、欧州全体で、もちろん世界でも、言えることでしょう。日本も例外じゃないと思います。日本が急激に増えていることは今日、ニュースで流れていました」

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地球カレッジ

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※カリンヌ先生は今日、ワクチンを接種したことをツイッターで報告している。


「じゃあ、どうしたらいいの?」
「結局、ぼくらは辛い試練が続きますが、絶対に、警戒をこれまで以上に緩めちゃだめだということ。ムッシュも日本で時々、テレビに出ますよね?」
「最近はリモート出演だから、出てないよ」
「じゃあ、よかった。実は、ぼくの指導教授も専門医だからしょっちゅうテレビに呼ばれて出演します。けれど、必ずマスクをつけて出ます。それは自分たちが医師だから感染している可能性が普通の方々よりも高いから。で、同時に、テレビ局はある意味、密室ですからね、ウイルスは繁殖しやすいです。今は冬だから普通のご家庭も締め切るので、危険です。換気はしょっちゅうやらないと」
フランスの報道番組は一日中、識者が出てコロナについて議論しているけれど、興味深いことに、医師や科学者たちはカメラに映っている最中も絶対マスクを外さない。
医師らはスタジオでマスクをし続けている。逆をいえば、マスクをしているので、すぐに医者とわかる。彼らが恐れている意識をぼくは真似しなきゃ、と思った。


「ムッシュ、3月にぼくがデザインストーリーズで皆さんに語ったこと、覚えていますか? 免疫力を付けるという話し」
「ああ、もちろん」
「あれ、馬鹿にしちゃダメですよ。とくにムッシュはもう、ペルソン・アジェですからね」
かっちーーん。ペルソン・アジェ=高齢者、という扱いを受けたということだ。しかし、免疫力は加齢とともに消えていく。
ま、20代の彼からすれば、ぼくはかなり年寄りの部類に入る。
しかし、近頃の、若い奴らは言葉の使い方がわかっちゃいない。ぷんぷん。
「でも、ムッシュは見た目が若い。背筋も伸びてるから、大丈夫」
「え?」
いいことも言う。シモンは近頃の若者の中ではまともな方だ。よしよし。
「身体鍛えているでしょ? 何されてます?」
「あ、毎日、4,5キロ走ってるし、フォームローラーとか使って、筋肉をほぐしているし、栄養のあるものをバランスよく食べています」
シモンが笑顔になった。
「いいですね。免疫力って、内側からも生み出せるものだから、たくさん笑ってください」
「あ、笑ってるよ。ぼくは毎日、鏡の前でヘンガオしたり、変なダンス踊って大笑いしているんだ」
「ヘンガオってなんですか?」
そこでぼくはシモン君にヘンガオをしてみせた。シモンが大爆笑した。
「毎日、笑って、ストレスを溜めないように、なんとかなるよって気持ちで毎日を乗り切ってください。コロナが怖いと思ってストレス抱えたら、あいつらの思うつぼですからね。常に前向きに生きる。これが実はコロナに勝つための第一歩、そして、できる限り人の集まる場所には行かない」
「日本は緊急事態宣言だそうだけど、実は法的拘束力がないのと、みんな慣れだしているから、効果が出るかわからない」
「ならば、自主ロックダウンを、すくなくとも個人的に、或いは家族単位で暫くは続けるしかないですね。結局、感染しない一番の方法は、人と接触しないことの徹底ですから、自主ロックダウンをするくらいの気持ちで世界と出来得る限り距離を保つことです」
「その通りだ」
「若年層への感染が広まっていますから、家の中も気を付けてください。一時間に一度の手洗い、室内のこまめな換気、忘れないで!」
「アイアイサー!」

※※※※※

 

この記事のように、フランスでは変異種の噂が数多くあるようです。

イギリスと南アフリカの変異種が感染力が強いことはすでに明らかになっていますが、それ以上のことはまだ何もわかっていません。

ファイザーのワクチンが、イギリスや南アフリカ由来の変異種にも効くというニュースが今流れています。

中国で全く新しい変異種が発生したというニュースもあります。

前も書きましたが、アフリカ、中国、インド、南米で発生する変異種に気をつけた方がいいと私は思っています。

特に、野生動物との関係が濃厚なアフリカと中国は要警戒です。

 

イギリス由来の変異種よりも南アフリカ由来の変異種の方がずっと怖ろしいでしょうし、ナイジェリアや中国で発見されたという変異種は気になります。

これから、アフリカや中国で発生する変異種の中には、ワクチンが効かないものも現れるのではないかと危惧します。