11月3日の米大統領選に向けた初の候補同士のテレビ討論会が29日夜、オハイオ州クリーヴランドで行われた。ドナルド・トランプ米大統領(74)がルールや司会者を無視してジョー・バイデン前副大統領(77)への攻撃を重ね、バイデン氏が「あなたはうそつきだ」などと応酬する、異例の混乱状態になった。
現代の大統領討論会でも特に混乱した展開となる中、司会のクリス・ウォラス氏(フォックス・ニュース司会者)はたびたびトランプ氏の不規則発言を制止しようと声を荒げた。トランプ氏に「あなたの陣営が同意したルールに従うつもりはないのですか」と問いただす場面もあった。
トランプ氏は、白人至上主義者を非難するよう求められても直接非難せず、選挙結果は信用できないものになると述べる場面もあった。また、白人至上主義団体に「待機」するよう指示したかのように聞こえる発言もあった。
90分間の討論会では、アメリカで20万人以上が犠牲になっている新型コロナウイルスや、経済、最高裁判事人事、選挙そのものの信用性、人種問題などが主なテーマとなった。
トランプ氏は繰り返し、バイデン氏について、民主党内の左派や「社会主義者」の言いなりになると批判した。
バイデン氏は、トランプ氏を「うそつき」と呼び、「この人が言うことは何もかもうそだ」、「自分が何を言っているかまったく分かっていない」と述べた。これにトランプ氏は「うそつきはそっちだ」と返した。
討論会のルールに違反し、バイデン氏の発言を繰り返しさえぎるトランプ氏に、バイデン氏が「少し黙ってくれないか」と切り返すやりとりもあった。
バイデン氏はほかに、トランプ氏を「アメリカ史上最悪の大統領」や「プーチンの子犬」などと呼んだ。トランプ氏はバイデン氏の息子を「不名誉の除隊をさせられた」、「党内の社会主義者の言いなり」などと攻撃した。
バイデン氏はトランプ氏の新型ウイルス対策を厳しく非難。
「2月の時点で恐ろしい病気だと承知していながら、パニックに陥ったか、それとも株価を見たんだ」と批判し、「すでに大勢が亡くなっており、(トランプ氏が)もっとすぐにもっと賢くならなければ、もっと大勢が亡くなる」と述べた。
するとトランプ氏は、「そっちは学年ビリかビリの方で卒業したくせに、『賢い』なんて言葉を私に使うな。絶対に使うな」と反撃した。
トランプ氏は、自分の指導力によってアメリカ経済は復活すると約束。バイデン氏がトランプ政権の失策を批判するとトランプ氏は、政界キャリアの長いバイデン氏に「47年間、どうして何もしなかったんだ」と繰り返した。
米紙ニューヨーク・タイムズが27日に伝えたトランプ氏の納税額の問題について、ウォラス司会者が「2016年と2017年に払った連邦所得税は750ドルだというのは本当ですか」と尋ねると、トランプ氏は「何百万ドルも払った」と答えた。その上で、自分は以前は民間の不動産開発業者だったのだから税制の控除の仕組みを活用して節税するのは当然だとして、そういう税制を作ったのはバイデン氏たちだと批判。バイデン氏はトランプ氏のような富裕層を優遇する「トランプ減税を廃止する」と述べた。
リベラル派の故ルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事の後任人事については、トランプ氏は「選挙には意味がある」と述べ、自分たち共和党が前回大統領選で勝ち、2年前の中間選挙でも上院で多数を確保した以上、後任を指名承認する権利があると主張。これに対してバイデン氏は、有権者が終身任期の最高裁人事について意見表明できるのは選挙を通じてのみなので、大統領選を目前に人事を急ぐべきではないと批判した。
人種問題についてウォラス司会者がトランプ氏に単刀直入に、「白人至上主義を非難する用意はありますか」と尋ねると、トランプ氏は「もちろん、そうする用意はある」と返答。「ではそうしてください」と念を押されると、一拍の間を置いた後、「なんて呼びたいんだ? 名前をくれないか。誰を非難させたいんだ」と聞き返した。さらに、「でも悪いのはほとんどが左派だ。アンティファは本当に悪い」と話し続けた。
司会者が白人至上主義団体「プラウド・ボーイズ」の名前を出すと、トランプ氏は「引き下がって、待機するように。ただし言っておくが、誰かがアンティファと左派をなんとかしないと」と述べた。
法と秩序
法と秩序の話題になると、トランプ氏は1994年犯罪法案の話題を持ち出し、上院審議でバイデン氏がアフリカ系アメリカ人を「凶悪な常習犯罪者」と呼んだと述べた。これに対してバイデン氏はそんなことは言っていないと反論した。1993年に当時上院司法委員会の委員長だったバイデン氏は、「救いようがない(常軌を逸した)」「常習犯」が街中にいて常に被害者を探していると述べていた。
トランプ氏は繰り返しバイデン氏をさえぎりながら、「法と秩序を重視するか言ってみろ。『法執行』とさえ言えないのは、そんなことをしたら極左支持者を失うからだ」と挑発。バイデン氏は、「誰もが公平な扱いを受ける、正義による法と秩序が大事だ」と述べた。
また、トランプ氏や支持者が「バイデンは警察の予算削減に賛成だ」と繰り返している点について、ウォラス司会者に尋ねられると、バイデン氏は「警官の予算削減には大反対だ」と答えた。そして、自分は警察と連携しながら警察改革に取り組み、人種差別や容疑者への過剰な暴力などを減らしていくと述べた。
家族と倫理
中盤では、トランプ氏が戦死米兵を「負け犬」などと呼んでいたという報道内容を、バイデン氏が取り上げた(トランプ氏はこの報道を否定している)。バイデン氏は、病死した自分の長男ボー・バイデン氏が軍人で「英雄」だったと指摘。するとトランプ氏は「自分はボーは知らないがハンターは」と、バイデン氏の次男に話題を切り替え、ハンター・バイデン氏が共同で立ち上げた会社がロシア財閥から350万ドルを受け取っていたという上院共和党議員団の調査結果を取り上げた。
バイデン氏がそのような事実はないと反論すると、トランプ氏はハンター氏について、父親のおかげで就職したなどと攻撃。バイデン氏は「家族と倫理の話を、彼の家族について話し始めたら、一晩中ここにいることになる」と述べた。
また、自分の発言を声高にさえぎり続けるトランプ氏について、「このふざけた男相手……失礼、この人相手に発言するのは大変だ」とも述べた。
トランプ氏がハンター氏について「軍を除名された」などと非難すると、バイデン氏はこれを否定。カメラに向かって「皆さんの周りにもそういう人が大勢いると思いますが」と語りかけ、「それと同じように息子も、薬物依存症の問題を抱えていましたが、自分で克服しました。自分で問題に取り組み、治しました。その息子を私は誇りに思っています」と述べた。
選挙の信用性
終盤では、バイデン氏は「この大統領のもとでこの国は前より弱くなった。前より病気になり、貧しくなり、前より分断され、前より暴力の横行する国になった」と述べ、有権者になるべく早く投票するよう呼びかけた。
これに対してトランプ氏は、郵便投票は「不正だ、結果がごまかされる」と従来の主張を繰り返し、選挙結果を疑う姿勢をあらためて示した。
新型ウイルスの感染対策として選挙当日の投票所を避けようと、期日前投票が始まっている州ではすでに前回選挙を大きく超える人数が投票している。また郵送による投票の増加も予想されている。
こうした状況でウォラス司会が選挙当日について、「有権者に落ち着いて行動するよう、騒乱に参加しないよう呼びかけますか」と質問すると、トランプ氏は「支持者に投票所へ行き、注意深く観察するよう呼びかけている」と答えた。トランプ氏は、自分の支持者がペンシルヴェニア州フィラデルフィアで期日前投票の監視を阻止されたと述べた。しかし、フィラデルフィア市選管は、トランプ陣営は選挙監視員を登録しておらず、一般市民が投票所の中に入り投票を監視することは認められていないと説明している。
一方のバイデン氏は、大事なのは「投票を数えることだ」と述べ、選挙結果が独立した第三者に確認されるまでは勝利宣言を控えるかという質問に、そうすると答えた。さらに発言を続けようとすると、トランプ氏にまたさえぎられた。
本当の敗者は
BBCがアメリカで提携するCBSニュースによる視聴者調査では、討論会の勝者はバイデン氏と答えた人は48%、トランプ氏と答えた人は41%、どちらとも言えないと答えた人は10%だった。
多くのコメンテーターは、無軌道に罵倒と攻撃が繰り返されたこの夜の討論会で、本当に敗北したのはアメリカと国民だと話している。
CBSの調査によると、69%の有権者が討論会を見て不愉快になり、19%が悲観的になったと答えている。一方で、31%が楽しかったと答え、17%が新たな情報を得たと答えたという。
(英語記事 US election 2020: Trump and Biden duel in primetime debate / Trump and Biden clash angrily /
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この記事は的確に捉えていると思います。
やはりアメリカの記事のほうが分析力があり、日本の記事は情緒的です。
今回のテレビ討論会は史上最悪の討論会と言われています。
しかし、そんなアメリカ史上最悪の討論会でも、日本の政治討論会よりはるかにすばらしいです。
それが、国民のレベルなのかもしれません。
CNNなど討論会後のアメリカのテレビ番組を見てみましたが、さかんに『ファクトチェック』をしていました。
つまり、トランプとバイデンの発言が事実かどうかを冷静にチェックしているのです。
『トランプ、あなたはこういうときにこういうことを言った』
『私はそんなことは言っていない』
というようなやりとりは盛んに出てきます。
そのひとつひとつについて、事実と照らし合わせて、事実はどちらか、をチェックするのです。
こういうことが日本でも当たり前になっていけば、政治のレベルも上がるのに、と思います。