討論会、トランプ勝利という人がいるけど

                                                                                          (写真:ロイター/アフロ)

 米大統領選のテレビ討論会(1回目)が9月29日夜(日本時間30日午前)、中西部オハイオ州クリーブランドのケース・ウエスタン・リザーブ大で開催された。11月3日の大統領選までに3回開催されるテレビ討論会は、どちらの候補が大統領にふさわしいかを有権者が見極める重要な機会。特に、今年は新型コロナウイルスの影響などで民主党のバイデン候補が露出を控えてきたため、バイデン候補の具体的な政策や資質などがどこまで明らかになるかが注目された。トランプ大統領とバイデン候補の直接対決となった1回目の討論会について、米政治や社会事情に精通した米国在住の酒井吉廣氏が答える。

──1回目の討論会が終わりました。率直にどういう感想を持ちましたか。あえて勝ち負けをつけるとすれば、どちらが勝者でしょうか。「史上最もカオス」な討論会という指摘も出ましたが・・・。

 

酒井吉廣氏(以下、酒井):視聴率を見ないと総括は難しいですが、記録的な高視聴率をマークしたとすれば、トランプ大統領の勝ちだったと言えるでしょう。

 47年の政治歴を持ち政治討論会に慣れたバイデン候補と、2016年もそうでしたが討論会に慣れておらず、しかも自分の司会番組で話をしているような雰囲気のトランプ大統領がお互いに言い合っているという印象でした。極端に言えば、仲の悪い人が怒鳴り合っていると言ってもいいぐらいのレベルです。批判を恐れずにあえて形容すれば、ガチのプロレスという感じです。

 

──それはどういう意味でしょうか。大統領選にどう影響するのでしょうか。

 

酒井:プロレスは最初からルール無用の血まみれの戦いが面白いわけで、それが米国を良くするかどうかの戦いだとすれば視聴者もくぎ付けになります。つまり、テレビ討論会をインテリのものにせず、大衆のものにできたなら、トランプ大統領の勝ちが見えてくるということです。

──テレビ討論会の主旨を変えることになりますが・・・。

酒井:バイデン候補の方が2016年のクリントン氏よりも政治家としての理性を持っていたとは言えますが、トランプ大統領の攻撃に我慢ならないことがあったのでしょう。言い合いになったり、バイデン候補がトランプ候補の話を遮って批判したりするシーンもありました。しかし、この手のバトルになるとバイデン候補には勝ち目はありません。

 このように、1回目の討論会はそれぞれの候補者や支持者が「自分は優勢だった」と主張できるような、討論会というよりZoom(オンラインビデオ会議システム)で話しているような感じ(相手が何を話すかではなく、自分が何を言うかに集中する会議)でした。ただ、その中でも極めて重要なことがわかりました。バイデン候補が中道の政策を採ることが明確になったということです。

司会者ウォレス氏のファインプレー

――それはトランプ陣営の戦略でしょうか。

酒井:バイデン陣営は明確な政策案などを示さず、現在までの高い支持率を維持して逃げ切ろうとしているのは誰に目にも明らかでしょう。とすれば、それを妨げなければトランプ陣営に勝ちはありません。

──もともとバイデン候補は中道左派の政治家です。なぜ中道路線が明確になったことが重要なのでしょうか。

酒井:司会者のウォレス氏はFOXニュースのアンカーですが、民主党員です。今回の討論会で、ウォレス氏は両候補にとってとても重要な行動を取りました。まさに48年の政治記者歴の賜物と言えるでしょう。1回目の司会者の重責を十分に勤め上げたと言えます。

──と言いますと?

酒井:一つは、話しまくるトランプ大統領を何度も抑制したこと。これでウォレス氏がトランプ陣営寄りではないと視聴者は感じました。バイデン陣営はほっとしたことでしょう。放置したら、トランプ大統領の圧倒的優勢になったと思います(プロレスであればの話ですが)。

 ところが、ウォレス氏はバイデン候補に対しても重要な問いを発しました。バイデン候補に対して、中道なのか超リベラルなのか、彼のスタンスが曖昧な経済政策や社会問題への対応(黒人暴動と黒人への差別撤廃への対応策)などについて何度も質問を突きつけ、彼が中道だということを引き出したのです。

 これはどちらに投票するかを決めていない人にとっては、重要なことでした。民主党の分裂を表に出したと言えます。特に、バイデン候補は今後、これを上手く説明しないと、サンダース上院候補のような超リベラルがバイデン候補から離れてしまう。これが、若者などの熱狂的民主社会主義者の票を失うリスクにつながります。

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この記事によれば、トランプ勝利だとか。

そうであればいいのですが、私にはどうしてもトランプ完敗にしか見えませんでした。

確かに、バイデンが、中道なのか超リベラルなのかを引き出したことには意味があるとは思いますが、中道だと引き出したのは司会者です。

トランプは何も引き出せませんでした。

意外とディベートが下手だなというのが印象です。

バイデンの息子ハンター・バイデンがロシアから350万ドルものお金をもらっていたということを追求し始めるとバイデンは『そんな事実はない』と言い、『ハンターは軍を除隊させられた』というと、カメラの方を向き、『息子は薬をやっていた。そしてそれを克服した。』というようなことを言いました。トランプはここでバイデンとロシアとの関係を追求していくべきでした。それをしないうちに他のことで非難するとロシアとのことがうやむやになってしまいます。

あまりにもトランプの手法が稚拙のように感じました。

また、バイデンが中道なんて、誰でも知っていることです。

だからこそ、リベラル派の票を取るためにカマラ・ハリスを副大統領候補にしたのですから。