| 原文 | 英訳 | 逐語訳 |
|---|---|---|
| Freude, schöner Götterfunken, | Joy, lovely divine spark, | 喜びよ、美しい神々の閃光よ |
| Tochter aus Elysium, | Daughter from Elysium, | 楽園の世界の娘よ |
| Wir betreten feuertrunken, | drunk with ardour we approach, | 私たちは足を踏み入れる、炎に酔いしれつつ |
| Himmlische, dein Heiligtum! | O heavenly one, your sanctuary. | 天なるものよ、あなたの聖所へと |
- Funkeは火花とかスパーク。神々のスパークは、曲の冒頭の原初の世界にも通じるかな。神の本質が火花となって人間の中にとびこんで精神になるというのは、ドイツ神秘哲学からフィヒテにいたる思想だそうだ。たとえば神秘主義のヤーコプ・ベーメ(1575-1624)は「純粋なる神性に関して言えば、神は光り輝きながら燃える精神であり、自ら以外のいかなるものをも住みかとせず、他に比べるもののない無比の存在である」というようなことを言っている。
- Elysiumはギリシャ神話の楽園。ホメロスのオデュッセイア第四書563行には「エリューションの野」として登場する。シラーは、『素朴文学と有情文学について』という文学論で「もはやいかにしてもアルカディアの地にもどることのできない人間を理想郷(エリュージウム)にまでみちびくような牧歌をおのれの課題とするがよろしい」と述べるなど、彼の中では人間の到達すべき、前方にある楽園という位置づけ。なおTochter aus Elysiumというフレーズは、第九においては何度も使われることから重要な意味を持たせる解釈がある一方、小塩節によればシラーの考え出したアレゴリーでイメージ的に捉えればよいという。
- feuertrunkenはdrunk/intoxicated with fireと訳しているものが多い(ほかにはfire-inspiredなど)。邦訳は「火のように酔う」とするものもあるが、前段のGötterfunkenを受けて「火に酔いしれて」とするほうがよいと思う。丸山桂介は「炎に焼かれて」と訳し、むしろ後段のケルブに結びつけているのだが。
- Himmlischeは「タリーア」第2号に添えられたケルナーによる楽譜ではGottlicheとなっており(本文ではHimmlische)、出版前の原案段階ではこちらだったのかも知れない
| 原文 | 英訳 | 逐語訳 |
|---|---|---|
| Deine Zauber binden wieder, | Your magic re-unites | あなたの魔法の力は再び結びつける |
| Was die Mode streng geteilt, | what custom sternly separated; | 世の中の時流が厳しく分け隔てていたものを |
| Alle Menschen werden Brüder, | all men shall be brothers | 全てのひとは兄弟になるのだ |
| Wo dein sanfter Flügel weilt. | wherever your gentle wings tarry. | あなたのその柔らかな翼が憩うところで |
- Zauberは不思議な魔法の力。Zauberflöteなら魔笛だ。
- Modeはいろいろな社会的、人間的な関係。
- strengは厳しい。
- Brüderにはアクセントがつけられている。Alle Menschen werden Brüderは、初版(1786)ではBettler werden Fürstenbrüder(乞食が王侯の兄弟となる)。
- werden = become, to be
- weilt < weilenは「とどまっている、滞在する」。英訳ではrestとなっていたり、意訳してunder the sway of thy gentle wingなど。
| 原文 | 英訳 | 逐語訳 |
|---|---|---|
| Wem der große Wurf gelungen, | He who has the great luck | 大きな幸いを得たひと、(すなわち) |
| Eines Freundes Freund zu sein, | of being a friend to a friend, | ひとりの友の友となり |
| Wer ein holdes Weib errungen, | whosoever has won a dear wife, | 優しい妻を得たひとは |
| Mische seinen Jubel ein! | let him mingle his joy with ours | その喜びを共にしよう! |
- Wurfは投げて届くこと、(幸運な)大当たり。gelungen < gelingen は成功する。
- Eines Freundes Freund zu seinは「真実の友を得る」とか「永遠の友を得る」と訳すことが多い。Weibはwifeだが女性一般も指す。
- mische < mischenはmix。
- 1805/06年の歌劇「レオノーレ」(1814年「フィデリオ」)のフィナーレでは、フロレスタンを救った勇敢な妻レオノーレを讃えて "Wer ein solches Weib errungen, Stimm'in unsern Jubel ein!" と繰り返し歌われる。いうまでもなく、シラーのこの詩を下敷きにしたものだ。
| 原文 | 英訳 | 逐語訳 |
|---|---|---|
| Ja, wer auch nur eine Seele | Yes and he too who has one spirit | そうだ、たとえたったひとつの魂であっても |
| Sein nennt auf dem Erdenrund! | on the face of the earth to call his own! | 自分のものと呼べるものが世界の中にあるのならば! |
| Und wer's nie gekonnt, der stehle | And he who cannot do so, let him steal | そしてそれができないものは、そっと出ていくがいい |
| Weinend sich aus diesem Bund! | weeping from this assembly. | 涙しながらこの集まりの外へ! |
- auch nur eine Seele = even only one Sole
- nennt < nennen = nameで、sein nenntはname [it] his own「自分のものと呼ぶ」
- Erdeは地球、世界。Das Lied von der Erdeなら「大地の歌」。auf dem Erdenrundというとin the world aroundというところ。
- ベートーベンはnie gekonnt(できない)に向かってクレッシェンドして最高音を与え、その上sfまでつけている。
- stehlenはstealで、忍び足で歩く。weinenは泣く。schreienのように大声で泣くのではなく、涙を流すという感じ。音楽はここでディミヌエンドして、そっと出ていく様を示す。
- Bundはbandに通じる集まり、連盟で、Deutsche Bundといえばドイツ連邦。第1節のbindenと派生関係にある。Erdenrundとは韻を踏むと同時に「輪」のイメージを共有する。
| 原文 | 英訳 | 逐語訳 |
|---|---|---|
| Freude trinken alle Wesen | All creation drinks joy | 喜びを飲む、全ての生きとし生けるものは |
| An den Brüsten der Natur; | from the breasts of nature; | 自然の乳房から; |
| Alle Guten, alle Bösen | all the good and all the bad | 全ての善きもの、全ての悪しきものも |
| Folgen ihrer Rosenspur. | follows in her rosy path. | そのばらの道を追い求めてゆく |
- Wesenは実在するもの、生きるもの。本質。たぶんSeinよりも具体的な存在。
- folgenは、単に「道を進む」よりfollow in one's stepsのような、その道に従っていくという感じ
- バラの道というと美しさに溢れた自然の小径という感じもするが、実はバラには刺があり、Spurは傷跡でもあることを踏まえると、「これはイエスの聖瘡を指していて、この部分全体が信仰によって神に至ることを歌っている」という深読み(丸山)もできなくはない。また東京芸大の檜山氏は「飲んだ喜びの残り香」として“ばらと香るその跡にしたがう”という解釈を示している
| 原文 | 英訳 | 逐語訳 |
|---|---|---|
| Küsse gab sie uns und Reben, | Kisses she gave to us and wine, | 喜びは私たちにキスと葡萄酒とを与えた、そして |
| einen Freund, geprüft im Tod; | and a friend tried in death; | 死の試練をのりこえた友を; |
| Wollust ward dem Wurm gegeben, | even to a worm ecstasy is granted, | 快楽は虫けらに与えられ |
| und der Cherub steht vor Gott! | even the cherubs stand before God. | そしてケルブが立っているのだ、神の前には |
- geprüf
ut < prüfen = prove。geprüfut im Todは「生死を共にする」という意味に捉えて、生涯の友と訳すこともある - Wollustは現代の意味では官能的快楽だが、古義としては歓喜。wardはwerdenの過去形の文語表現。gegeben < geben = give。ここは(1)「快楽は虫けらにくれてやり」と、俗世の楽しみを超越して神の世界に至るように訳す立場と、(2)「快楽は虫けらにも与えられ」と平等を歌うという捉え方の両方が見られる。
- Cherubは智天使ケルブで、一般には複数形のケルビムで知られる。現代では可愛らしい赤子のイメージでとらえられることもあるが、本来は神の戦車を駆ったり怪物のような姿で描かれる存在。しかもベートーベンはGottではなくCherubにfを与えている。
| 原文 | 英訳 | 逐語訳 |
|---|---|---|
| Froh, wie seine Sonnen fliegen, | Just as gladly as His suns fly | 朗らかに、創造主の恒星たちが飛び回るように |
| Durch des Himmels prächt'gen Plan, | through the mighty path of heaven, | 壮大な天空を駆け抜けて |
- frohは朗らかな、元気な、嬉しい。Frei aber Frohといえばブラームスの「自由に、しかし楽しく」。Freude, Freundeと並んでFrで始まる重要な語句で、テノールのソロでも念を押すように2回繰り返されて始まる。
- seine Sonnenは、複数形でしかも「彼の」だから、造物主が宇宙にちりばめたたくさんの太陽ということになるだろう。これも、ソロで2回繰り返されて強調される。この1行は、次に進む前にもう一度繰り返される。
- Planは地図あるいは広場で、Himmels Planなら天の全体という感じ。prächtig = splendid, glorious
| 原文 | 英訳 | 逐語訳 |
|---|---|---|
| Laufet, Brüder, eure Bahn, | so, brothers, run your course | 進め、兄弟よ、おまえたちの行く道を |
| Freudig, wie ein Held zum Siegen. | joyfully, like a hero off to victory. | 喜びに満ちて、勝利に向かう英雄のように |
- laufet < laufen = run。Laufet, wie sine Sonnen fliegen.., wie ein Held..と前後にかかるから、「兄弟よ、恒星のように、英雄のように道を進んでいけ」ということ。原詩ではWandelt(ゆったり歩いていけ)となっている版もある。
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原文 |
英訳 | 逐語訳 |
|---|---|---|
| Seid umschlungen, Millionen! | O you millions, let me embrace you. | 抱きしめられなさい、何百万の人々よ! |
| Diesen Kuß der ganzen Welt! | Let this kiss be for the whole world. |
このキスを全世界に!
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原文 |
英訳 | 逐語訳 |
|---|---|---|
| Brüder! überm Sternenzelt | Brothers, above the tent of stars | 兄弟たちよ、星の輝く天幕の彼方に |
| Muß ein lieber Vater wohnen. | a loving Father cannot but dwell. |
愛に満ちた父がいるに違いない |