中国王毅外相の欧州訪問

中国の王毅外相がいま、欧州を訪問しています。

米中の対立が鮮明となり、米国側に、イギリス、オーストラリア、インドなどが続々ついて行っているので、焦った中国は経済で中国べったりだった欧州の国々を仲間に取り入れようとしているのです。

最初の訪問国はイタリアで、最後の締めはドイツです。

イタリアもドイツも、欧州の中でも最も中国べったりな国ですので、王毅外相としては、楽観視していたでしょう。

しかし、最初のイタリアのときから、香港やウイグルのことで厳しく問い詰められました。

他の訪問国も同じです。

そして、最後のドイツ訪問に関して、ドイツに住んでいる作家の人が記事を書いていましたので、載せます。

 

※※※※※

ドイツメディアで、何かが変わった

写真:現代ビジネス

 9月1日、夜7時のニュース(ZDF・国営第2テレビ)の真ん中あたりで、中国の王毅外相のドイツ訪問のニュースが流れた。

ドイツのマース外相との共同記者会見の様子が主だったが、二人の態度が凍りつくように冷たい。

ニコリともせず、ほとんど目も合わせない。

ひょっとして演技かと思うほどの異常さだった。

 

マース外相は、伝統的に中国寄りのSPD(社民党)の政治家にしては珍しく、最近、かなり中国の人権侵害に言及していた。

香港との犯罪人引き渡し条約もいち早く停止している(日本は香港と犯罪人引き渡し条約を結んでいない)。  

ただ、この記者会見を見る限り、民主主義の価値を守りつつ、中国のメンツも潰さないというマース外相の試みは、ほとんど暗礁に乗り上げていた。

「ヨーロッパが中国との良い関係を望んでいるということをお伝えすることは私にとって非常に大切」、「地球温暖化防止は、中国の協力なしには行えない」など涙ぐましい。  

それでも、今やこのマース外相の態度が、ドイツの主要な政治家の中では中国にかなり厳しいものとして映るのは、メルケル首相(CDU・キリスト教民主同盟)があまりにも中国に近しく、対中政策を卑屈な叩頭政治にしてしまっているからだ。  

 

このニュースのあとで同テレビ局のホームページを見たら、この王毅外相の訪独についての詳しい記事が出ていた。

こちらは、これまでになく、歯に衣を着せぬ率直さで中国批判を展開している。

 

タイトルは「中国に対する幼稚な思い込みからの決別」。  https://www.zdf.de/nachrichten/politik/kommentar-china-berlin-100.html  

 

記事のリードは「王毅外相はヨーロッパ訪問で、恐喝し、威圧する中国を見せつけた。彼は、『中国に対する幼稚な思い込みからの決別』という方向転換を加速させてくれるかもしれない」。  

ドイツ政府はここ20年間、交易が盛んになれば、中国は自然に民主化されるという理屈をかざして商売に励んできた。

それが正しくなかったことは、すでにここ10年ぐらい明らかなのだが、しかし、産業界の意向もあり、これまで軌道修正は意識的になされなかった。

つまり、中国が勝手に民主化すると、ドイツ人が幼稚に思い込んでいたわけでないということは、ここで付け加えておきたい。  

 

記事を読んでみると、ウイグルで100万人が収容所に入れられていることも、香港で人権や協定が破られていることも、チェコの議員団が台湾を訪問したあと王毅外相に恐喝されていることも、中国が強硬に売り込んでいる5Gのファーウェイが、ウイグル人の監視と抑圧に多大な貢献をしていることも、全部書いてある。  

 

そればかりか、「特にメルケル首相とアルトマイヤー経済相は、北京の怒りを買って経済的な不利益を被ることを恐れて、今でもシャープな批判は躊躇っている」とメルケル批判まで入っていたのにはビックリ。

これまでにはなかったことだ。

ドイツメディアで、何かが変わった! と私は感じた。

 

 

中国擁護は第1テレビの方針なのか

〔PHOTO〕Gettyimages

 そのあと夜8時には国営第1テレビのニュースがある。

日本で言えば、NHKの夜7時のニュースのような位置づけだ。

トップニュースは延々とトランプ米大統領の悪口。

しかし、最後まで見ても、王毅外相の訪独のニュースはなかった。私は呆気に取られた。  

第1テレビも第2テレビも、毎晩、10時前後にもう一度、ニュース番組を流す。

こちらは時間が少し長く、その日のニュースの重要なものをさらに掘り下げる。  

この日、第2テレビの9時45分のニュースでは、王毅外相の件がトップニュースに出世していた。

そればかりか、香港から亡命してきている活動家Nathan Law氏のライブインタビュー、CDU議員ミヒャエル・ブラント氏の解説などを含め、30分番組の13分あまりを割くという大きな扱いだった。  

ブラント議員は驚くほど的確に中国の現状と問題点を提示しており、こういうものが主要メディアのニュースの時間にここまで丁寧に取り上げられることは今までほとんどなかったため、私は、再びドイツの中国報道の分水嶺を見るような思いだった。  

だから、期待したのだ。

第1テレビも10時15分からの詳しいニュースではこの問題を取り上げるだろうと。

ところが、ニュースを見終わった私は、またもや呆気に取られた。

王毅外相のニュースは無かった。  

去る7月24日、私は本コラムで、第1テレビの北京特派員ウルフ・リョラー氏の、あまりにも不思議な論理を批判した。  

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74276  

 

彼は、「そのうち我々は香港を見ることをやめるだろう、あるいは、率直に言うなら、わざと目を逸らすことになる。そのために支払わなければならない(経済的)代償が、我々にとって高すぎるからだ」と書き、それを苦い現実として擁護していた。  

だから私は彼を批判したのだが、今、思えば、中国擁護は第1テレビの局としての方針なのか? 

そうだとしたら、その理由を知りたい。

それに、このような「報道しない自由」を行使する放送局が国営で、国民が多大な視聴料を取られているというのは納得し難い。

 

 

 

王毅外相の不機嫌の理由

〔PHOTO〕Gettyimages

 

 今回、王毅外相はドイツの前にイタリア、オランダ、ノルウェー、フランスを訪問した。

コロナ騒動勃発以来、初のヨーロッパ訪問だ。

彼の目的は明らかで、米中紛争において、EUを中国の味方に付けることだろう。  

ところがヨーロッパに来てみたら、風向きはすでに変わっており、今や中国の気にいることを言ってくれる国は無くなっていた。  

イタリアのように、中国から莫大な投資を受け、コロナの非常時にも助けてもらい、しかも「一帯一路」に率先して加わった国の外相でさえ、「(香港の)自治権と自由の保持は絶対に守られなければならない」と言ったのだから、王毅外相の不機嫌は想像に難くない。こうなると、最後の望みはドイツであったはずだ。  

ドイツはこれまで中国とはとりわけ仲が良く、顔を合わせば“ウィンウィン! ”と口癖のように言っていた。中国がEUでダンピングなどの問題を起こすたびに、助けの手を差し伸べるのがメルケル首相の役目となっていたほどだ。

だから今回も、マース外相は仏頂面をしながら、奥歯に物が挟まったような物言いを繰り返した。  「我々は主権国家として堂々と行動しなければならない」とか、「物事は対話で決めるべき」とか、「コロナ対策は国際協力が必要」とか、「二国間関係は同じ目線で互いに尊敬し合い」とか……。  また、台湾には一切言及せず、香港問題については、マクロン仏大統領のように「非常に懸念」とは言わず、「心配事はまだすべて取り除かれたわけではない」となる。

いったい何が言いたいの? という感じだ。  

そもそも「二国間関係は同じ目線で互いに尊敬し合い」というのは、前々から中国が主張していることでもある。

中国の論理では、「だから内政干渉はやめろ」となる。  

また、この日、王毅外相が強調していたのは、中国とヨーロッパの関係が悪化しているのは、第3国のせいだということ。

もちろん米国を指す。

中国は、自分たちがヨーロッパでの覇権拡張を図っていることなどおくびにも出さず、中国とヨーロッパは米国がいなければ仲良くできると示唆した。

 

 

EUはどこへ向かうのか

〔PHOTO〕Gettyimages

 

 ただ、私がわからないのはヨーロッパの本音だ。

現在、どの国も中国に向かって人権やら民主主義を主張し始めたが、商売を犠牲にしてまで中国に楯突こうという国を私は知らない。

しかも皆、自分たちが人権問題などに拘って中国との交易に穴を開けたら、他の国が喜ぶだけだと思っている。  

直近の利益を犠牲にしても中国の伸長を阻止しようとしているのはオーストラリアぐらいではないか。  

そもそも、本当に中国を牽制し、自由と民主主義を防衛するつもりなら、価値観を共有する国として米国と協調するべきだろうが、メルケル首相はトランプ大統領を蛇蝎の如く嫌っており、ほとんど反民主主義者の扱いだ。

だから結局、中国はヨーロッパの国々が、それぞれ別々に何を言おうがどうってことはない。  

唯一怖いのは、EUが束になって中国を締め出すことだろうが、EUがそう簡単に結束するとも思えない。

さらにいうなら、EUが結束できなくなった理由の一つが中国なのである。  

なお、ニュースでは流れなかったが、この記者会見では、質疑応答で香港やウイグルについての質問が盛んに出たらしい。

しかし、王毅氏はその度に、「国家の間では、相手国の主権を尊重し、内政には干渉しないのが原則だ」と撥ねつけ、最後には「それについてはマース外相に言ってある」と開き直ったという。

 

マース外相は事前に引導を渡されていたらしい。

はたして同じ目線だったのかどうか……。  

今年の後半は、ドイツがEUの閣僚理事会の議長国だ(半年ごとの持ち回り)。

どの国も自分が議長の期間中に何らかの政治的成果を残そうとするのが常だが、メルケル首相はもちろん、中国との関係改善をテーマに定めていた。  

今月、ドイツのライプツィヒで開催されるはずだったG27会議はEU-中国サミットと名付けられ、EUの対中政策を統一し、さらに習近平主席を招いて、投資の透明性を高めるためのEU・中国間の投資保護協定を締結する予定だった。

そして、メルケル首相は習近平主席とともに首脳たちに囲まれた記念写真を世界に発信するつもりだったのだが、もちろん、すべてコロナで中止。

次の日程はまだ決まっていない。  

 

いずれにしても、ドイツの対中政策もかなり歯痒いが、考えてみたら、日本の対中政策はもっと酷かった。

ドイツではようやく国営放送の一つが、ルポではなく、ニュースとして中国の実情を報じ出したが、日本の公共放送はまだ頑なに中国に寄り添っているように見える。

どうしたものか? 

                    川口 マーン 惠美(作家)

※※※※※

 

 

確かに、既に、世界中の国や企業が、中国によって儲けさせてもらっているので、いまある膨大な経済的利益をすべて捨ててまで中国と対峙するのは勇気の要ることです。

その点、オーストラリアはすばらしい。

そして、台湾を訪問したチェコはすばらしい。

そのチェコを応援して中国の恫喝に屈しないと言ったスロバキアはすばらしいです。

それに比べて、ドイツのメルケルは似非人権派です。

日本には人権をやかましく説教しながら、世界で最も人権蹂躙している中国には何も言いません。どころか国を挙げて支援しています。

 

そのドイツもマース外相を見る限り、世界の中国を見る目、そして流れが明らかに変わってきたと思えます。

 

中国に今鄧小平が生きていたら本当にやばかったと思います。

たぶん、世界の覇権国家になっていたでしょう。

鄧小平は目的を達するまではひたすら牙を隠していきますから、知らない間に中国が支配する地球になっていたでしょう。

そういう意味では、傲慢、横暴を隠さない習近平で本当によかったです。

恫喝ばかりするやり方ですから、敵を増やすだけです。