そこにある危機

■「日本はアジアのリーダー」という幻想  

2020年8月、あの惨劇から75年の節目を迎えた。日本は戦後一貫して「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と前文に掲げる憲法を守り、他国との摩擦・衝突を回避することに専念してきた。この間の発展で「日本は豊かで強い国」「アジアのリーダー」とプライドを抱いてきた国民は多い。だが、そろそろ「幻想」から脱却する時を迎えているのかもしれない。

残念ながら今や米国と激しくしのぎを削る中国はしたたかに、時に敵意をむき出しに軍事的覇権主義を突っ走っているのである。そう、「眠れる獅子」と言われたのは昔の話。むしろ、眠っているのは平和ボケした日本だけという惨状だ。新冷戦時代を迎え、米国を中心とする対中包囲網の動きが加速する中、わが国の為政者からはこの国を守る「覚悟」を感じることができない。  再び戦禍をもたらすのは誰もが反対する。語り継がれる惨劇に改めて「不戦の誓い」をした方々は多いだろう。だが、平和は日本のみが追求すれば維持できるほど優しいものではない。もはや、そのような時代は幕を閉じたといっても言い過ぎではないだろう。  

今、わが国が考えるべきは米国と肩を並べる超大国になった中国との関係だ。2010年に国内総生産(GDP)が日本を抜いて世界2位となり、経済大国となった中国は「世界の暴君」となっている。軍拡路線を突き進み、東シナ海や南シナ海で周辺国との摩擦・衝突を執拗に繰り返しているのだ。その姿勢は人気漫画『ドラえもん』のジャイアンの「俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの」を思い出させる。ドラえもんは子供から大人まで楽しめるが、現実はあまりに冷厳だ。

 

■中国「日本はアジアの小国」  

沖縄県の尖閣諸島周辺で中国当局の船は100日超連続して確認され、2012年9月の尖閣諸島国有化以降で最長となった。8月17日には中国海警局の船4隻が日本の領海に侵入。今年16回目の領海侵入である。中国外務省は「(尖閣諸島は)中国国有の領土だ」「海警局の巡航は中国固有の権利である」と繰り返し、「われわれこそが尖閣の施政権を握っている」と既成事実化しようとしている。中国の「サラミスライス」戦略である。  河野太郎防衛相は8月18日、駐日中国大使を呼び出して「日本周辺の海空域や南シナ海での中国側の動向に強い懸念がある」と自制を求めたが、彼らが「アジアの小国」とみなす日本の警告を受け入れる時代ではない。2020年版防衛白書で「力を背景とした一方的な現状変更の試みを執拗に継続している」と中国への警戒感を強めたのだから、そろそろ「遺憾砲」や「懸念砲」を繰り返しているだけでは意味がないことを安倍晋三政権は気づくべきだろう。

 

■国家のリーダーたるトランプ大統領  

頼りにならない日本政府に比べて、中国に対抗しているのは米国である。激しい貿易戦争を繰り広げるドナルド・トランプ大統領は香港民主化への弾圧に制裁を科す法律や、香港への優遇措置を撤廃する大統領令に署名。ウイグル族などへの人権侵害に加担したとされる中国企業への輸出を禁止する制裁措置も発表し、米テキサス州ヒューストンにある中国の総領事館を閉鎖させた。  8月14日にはトランプ大統領が「米国の安全保障を脅かす行動をとる可能性があると確信させる証拠がある」として、中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)に動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業を90日以内に売却するよう命令。米商務省も17日に中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」への追加制裁を発表し、米国の技術で開発・製造した半導体を同社に供給することを禁止した。米国は経済・安全保障の両面から欧州やアジアの国々に中国包囲網への参加を呼び掛け、中国による現状変更を許さないとの圧力をかけ続けている。それは、国家のリーダーとしてあるべき姿を教えてくれているようだ。

それに対して「外交の安倍」はどうだろう。何かあるたびに「遺憾砲」は繰り出すものの、予定していた習近平国家主席の国賓来日に配慮して、新型コロナウイルスの「震源地」である中国からの入国制限は遅れに遅れ、感染再拡大期に何を思ったのか在留資格を持つ外国人の再入国や中国からの往来再開に向けた協議に入る始末。中国・武漢のナイトプールで反省や謝罪の弁もないまま大規模パーティーが開催されている現状をどう見ているのか。  あれだけ勇ましく国内では吠える安倍総理は中韓両国への配慮から2013年12月を最後に東京・九段北の靖国神社参拝もしていない。閣僚になっても自民党政調会長になっても参拝を続ける高市早苗総務相を見習うべきだろう。これだけ指摘すると「いや麹町さん、これには緻密な安倍政権の戦略があって……」などと優秀な政府関係者からの“説明”が展開されるが、そんな意味不明な戦略が国際社会で通用するわけがない。安倍政権は中国にどれだけビビっているというのか。

 

■米論文「中国が沖縄を爆撃、尖閣奪取する」  

今、1つのリポートが注目を浴びている。それは5月19日に米シンクタンク「CSBA」が発表した「Dragon Against the Sun: Chinese Views of Japanese Seapower」だ。執筆した上席研究員のトシ・ヨシハラ氏は、中国海軍は艦隊の規模や火力等の戦力で海上自衛隊を追い抜き、それは次の危機における抑止の失敗の確率を高める可能性があると指摘している。そのうえで、日本と中国の海軍力の不均衡は日米同盟を緊張させ、アジアが不安定化するとして、日米両国は迅速にバランスを取り戻さなければならないと警鐘を鳴らしている。  と、ここまではちまたに溢れる論文とさほど変わらない。衝撃はここからだ。

その恐ろしいシナリオは、

①海上保安庁が尖閣諸島周辺に侵入する中国公船を銃撃し、中国が報復攻撃、

②中国の空母が宮古海峡を通過、

③東シナ海上空を警戒した日本の早期警戒機と戦闘機を中国軍が撃墜、

④中国が巡航ミサイルで沖縄・那覇空港を攻撃、

⑤米国が日米安全保障条約に基づく協力要請を拒否、

⑥宮古海峡の西側で致命的な軍事衝突が発生、

⑦4日以内に中国が尖閣諸島を奪取――という中身になっている。

 

これを単なる絵空事と切り捨てるのは簡単だ。しかし、そうはできない理由は、尖閣諸島周辺に侵入した中国海警局の船や漁船と海保との偶発的なトラブルが一気に「開戦」に向かうリスクになりえることはかねて指摘されてきたからだ。中国の禁漁期間は8月16日に終わり、中国漁船が大量に操業することになるが、海保がこれらを拿捕(だほ)した場合はどうだろう。逆に中国側に日本漁船が拿捕されることもありえる。その時に日本と中国はそれぞれ互いの立場を主張し、「領海侵犯を取り締まっただけ」というだけかもしれない。  しかし、偶発的にでも一度衝突が起きれば双方の監視・警戒活動はエスカレートし、さらなる衝突が発生しない保証は全くない。たしかに日米安保条約5条には、日本の施政下にある領域における米国の「対日防衛義務」が明記され、米国のマーク・エスパー国防長官は7月21日、「中国の人民解放軍が日本の施政下にある尖閣諸島の周辺海域に侵入する回数も時間も増やしている」と発言している。尖閣諸島は安保条約5条の適用範囲ということであるが、いま注目されているのは実際に武力攻撃が発生した場合に、米国はどの程度まで「協力」してくれるのかということだ。結論から言ってしまえば、それはいくらリップサービスをされようが「その時にならなければ分からない」。米国がメリット、デメリットを計算した上で先のシナリオ⑤のように判断しないとも限らないのである。中国はそれを試すようにジワリと領海侵入を継続しているように映る。

 

■これでは日本はすでに中国の属国  

安倍総理は「領土・領海・領空を守り抜く」と掲げて2012年末に政権奪還を果たしてから7年半も経つが、「外交の安倍」などカッコいいキャッチフレーズは聞こえてくるものの、目に入ってくるのは中国への配慮ばかりで実態は全く違う。政府による尖閣諸島の調査も1979年を最後に行われていないというからあきれてしまう。さすがに、自民党の保守系グループは黙っておらず、「日本の尊厳と国益を護る会」が8月15日、尖閣諸島周辺の領海で中国船が不当な漁労を行った場合には国連海洋法条約に基づいて拿捕するなど厳しく対処するよう求める提言を岡田直樹官房副長官に渡した。ただ、政府関係者からは「いま波を立てるべきではない」との声も聞こえてくる。一体、いつなら良いのか。すでに属国という気になっているのだろうかと疑ってしまう。  誤解を恐れずに言えば、新型コロナウイルスの危機から世界で最も早く回復する中国が世界経済の覇者になるのは時間の問題だ。その勢いで軍拡路線を突き進めば、軍事力は格段に増し、海洋進出も激しくさせていくだろう。現在は米国が「ナンバーワン」であるのは間違いないが、永遠に繁栄し続ける国はないということは小学生でも知っている。日本は日米同盟に依存する選択を選んできたが、中国の国力が米国を抜いた時に情勢はどのように変化するか。いつまでも「ドラえもん~」と泣いているだけの「のび太君」ではダメなのは言うまでもない。決して遠くない将来を見据え、キャッチフレーズを躍らせているのではなく、自分の足で立ち行動すべき時を迎えている。

                                                                           プレジデントオンライン

 

 

 

 

中国共産党政府が香港版国家安全維持法(国安法)を施行し、民主と自由の環境を著しく損なわせた。欧米や日本は、一部の制裁的措置を行うのみで、香港問題に強い介入は行わなかった。中国共産党の次の進出標的は台湾であると広く考えられている。米政治学者でスタンフォード大学フーバー研究所の上級研究員ラリー・ダイアモンド(Larry Diamond)氏は、中国共産党の「武力による台湾統一」は単なるハッタリだと考えるのは大きな間違いだ」と警告する。

ダイアモンド氏は先日、フーバー研究所のネットラジオで「中国の挑戦:過去、現在、未来」と題したディスカッションに参加した。

「米国は中国による欧米民主主義の転覆計画の全体像をまとめるのに長い時間がかかった。米国の外交政策やシンクタンクは、今後5~10年の中国共産党の危険性をかなり過小評価している。つまり、中国共産党が言っている『台湾統一』はハッタリではない」と指摘した。

また同氏は、「台湾統一が大げさだと考えるのも、口に出してそう言うのも危険であり、幻想だと思う。香港の問題で明らかになったように、私たちの予想は大きく外れた。中国共産党は香港の自由を着実に、一歩一歩浸食し、そして一気に絞めあげたのではないか」と述べた。

香港に対する欧米の反応は、中国共産党の台湾侵攻を早める可能性があるという。ダイアモンド氏によると、「中国共産党は台湾に対し武力行使しても処罰から逃れられると信じている。なぜならば香港を征服した後、欧米は『無力で、どうすることもできなかった』とみているからだ」という。

また同氏は「中国共産党の軍事現代化の速度と一部の武器の能力を見る限り、彼らがただの脅し文句を言っているだけだとは到底思えない」とし、「必ず台湾を侵略するとは言い切らなくても、間違いなくその準備はしている。この点については疑いの余地はない。今はまだ侵略成功の自信はないのかもしれないが、しかし彼らは毎年目的達成に近づいている。中国と台湾の軍事力の差は年々大きくなってきている。『台湾を侵略しても何の影響もない』という考えは、彼らの内部で受け入れられつつある」ことを指摘した。

元英首相のナチス・ドイツに対する宥和政策は「歴史の教訓」

欧米の不関与を予想する歴史的事例として、同氏は1930年代の英チェンバレン首相(当時)によるナチス・ヒトラー政権への宥和的政策をあげた。「1937年にチェンバレン氏が、『われわれは平和の時代にいる、ヒトラーが望んでいるのはチェコスロバキアだけ、彼に与えさえすれば良い、私たちは平和を享受し続けられる』と言った事を思い出す。そしてその結果も。あとのことは、皆知ってるだろう」と述べた。

一部の歴史評価では、チェンバレン首相の対ナチス宥和政策はヒトラー台頭と第二次世界大戦につながった、とみなしている。

ダイアモンド氏は、「ジョージ・シュルツ元国務長官がいつも言っていたように、『悪行を抑止する最善の方法は、強力な防御力と抑止力を持つことである』。これこそが米国のシンボルである鷹が片方の爪に矢を、もう片方の爪に枝を持つ理由だ」と説明した。

中国元外交官「対中宥和はもうやめて」

シドニー中国領事館元外交官・陳用林氏は8月7日、大紀元記者の取材に対して「中共は2049年までに『台湾を統一したい』と考えている。これは中国共産党の確立された目標であり、その動きを停止したことはない。「一国二制度」が破綻した今、「台湾の平和統一」の希望は泡のごとく消え去り、今は残された唯一の選択肢は武力だ」と述べた。

陳氏はまた、「中国が台湾を攻撃する能力が高まった今、米台間はその協力ペースを早める必要がある。そして米国の防衛システムに台湾を組み込むべきだ。中国共産党に『台湾を攻撃してもアメリカは無関心か、強い反応を示さない』と誤解されると、彼らは必ず露骨な攻撃を仕掛けてくるだろう」と述べた。

さらに同氏は「鄧小平氏が強調した『韜光養晦』(才能を隠して、内に力を蓄える)という政策を忘れてはならない。これがあと10年か20年続けば、西側は反撃する気力すら持てなくなるだろう」と警告した。

                                                                                   (大紀元)

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