米国は最近、レアアースの採掘でグリーンランド自治領政府と協力するという覚書に署名した。この分野への投資を呼び込むのが目的だ。中国が米国向けレアアースの輸出規制をほのめかしたことを受けて、中国以外から安定供給を確保するためのより広範な取り組みの一環である。
■レアアースの推定埋蔵量は3850万トン
グリーンランドのレアアースの埋蔵量は3850万トンにのぼると推定されている。グリーンランドを除いた世界の総埋蔵量は1億2000万トンであるとされる。
デンマークの調査機関、デンマーク・グリーンランド地質学調査(GEUS)のペール・カルヴィーグ主任コンサルタントは「豊富な資源を後ろ盾にしているため、覚書に規定された生産量はかなりの量だ」と話す。
レアアース生産において中国は世界を牛耳る立場にある。レアメタル(希少金属)の一種で17の元素の総称であるレアアースは、商業化は難しいものの、電気自動車(EV)や風力発電機、軍事技術などのハイテク機器利用には欠かせないものだ。70%超が中国で採掘されているが、加工に関しては同国がそれ以上の高いシェアを握っているからだ。
グリーンランドでのレアアース採掘に有利な立場にある2社は、中国との協力の必要性、さらには米国と欧州が中国産以外のレアアースを競争力のある価格で安定供給され得るかに関して、相反する考えを持っている。
その1社であるオーストラリアの企業、タンブリーズ・マイニングは、レアアースの中でも世界的に希少とされる鉱物資源の重レアアースに富んだ有望な資源を保有していると主張している。
同社の主任地質学者のグレグ・バーンズ氏によると、タンブリーズの採掘計画に中国の協力は不要だという。というのも、ここの鉱石は独特であり、トリウムやフッ素といった通常の汚染物質が混ざっていないからだ。つまり、低コストでレアアースを加工し、高い収益が得られる中国での精製作業の必要がないということになる。
バーンズ氏は「我々の作業には、中国の技術は要らないため、中国企業にアプローチする必要はない」と述べた。
■世界トップの技術と市場を持つ中国
しかし、レアアースに関するプロジェクトにおいて、価値の連鎖(バリューチェーン)の末端では中国に頼らざるを得ないと業界アナリストらはみている。
デンマークのオールボー大学のパトリック・アンデルソン氏は「鉱物の濃縮物を商品化する複雑な技術において中国企業は世界のトップとみなされており、中国は最大の市場でもある。従って、中国が持つ専門知識を完全に排除したプロジェクトが成功するとは考えづらい」と話す。
北極圏にあるグリーンランドでレアアースを採掘するもう1つの企業、グリーンランド・ミネラルズの筆頭株主は、中国の鉱物生産企業、盛和資源ホールディングスである。
オーストラリアの鉱山企業であるグリーンランド・ミネラルズの株価は最近、3倍に跳ね上がった。盛和資源の技術的なノウハウのおかげで、資本コストと運営コストを大幅に削減し、資源に対する収益の割合を大きく伸ばすことができたと発表したためだ。
グリーンランド・ミネラルズのジョン・メアー社長は「我々には中国の同業者が必要だ。西側のトップ企業とも協力しているが、中国がさらに良い方向に事業を押し進めてくれる」と話す。
グリーンランドでの採掘プロジェクトには賛否両論ある。副産物としてウラニウムやフッ素が出るためだ。同地の気候が地球温暖化の悪化具合を測るバロメーターとなっているなか、このプロジェクトが環境に影響を与える可能性があることも論点である。しかしプロジェクトから得られる恩恵を指摘する人もいる。
グリーンランドの首都、ヌークの政治家の中には、資源開発が雇用を創出して人口の流出を食い止め、長期的には、年間予算の半分以上を援助してもらっているデンマークからの独立性を高められると考える向きもある。鉱物の採掘は、環境技術の盛り上がりにつながり、地球の炭素排出量を減らす助けにもなり得る。
■開発を阻む官僚主義
しかし、自治領政府側の動きは鈍い。現在のところ、サファイアと斜長岩の2つの鉱山が運営されているだけだ。
鉱物資源・労働省は「我々の主要な関心事は、環境と公共の健康を守ることだ」としている。わずか5万6000人しかいないこの自治領(島)の開発を急速に進めないように奨励した鉱山事業の恩恵に関する研究結果に基づいているからだ。
実際のところ、グリーンランドでの採掘事業を行う2社が抱える最大の問題は、経験不足や大幅な人事異動、過度の警戒心からくる自治領政府の官僚主義だという。
グリーンランド・ミネラルズによると、この問題が同社のプロジェクトの進行を阻んできたが、環境への影響に関するアセスメントを提出した現在では公開協議に入っているという。
タンブリーズは開発認可を7年間、待ち続けている。ゆくゆくはアイスランドかデンマーク、またはノルウェーに建てられるとみられる鉱物精製の化学工場での地元雇用に関する協議が長引いているためだ。
同社のバーンズ氏は「変化の兆しは感じている」としながらも、「官僚主義がこの地域を殺してしまう」と嘆いた。
グリーンランド政府に向けたメッセージとして米国務省高官は、グリーンランドでの中国の役割を念頭に置きつつも「最良の方法を採れる幅広い企業群に門戸を開くことで、グリーンランドにとっての最良の選択ができる」と言うにとどめた。
しかし、グリーンランドの官僚主義がレアアースの資源開発事業に青信号を出したとしても、採掘された鉱物資源は結局のところ、バリューチェーンの末端で中国に行き着くこととなる可能性がある。
世界的なレアアースの供給網の構造をみると、多様性を求める欧米諸国政府や自動車産業は、川下の精製工場の建設にも焦点を当てる必要性があることを指し示している。
GEUSのカルヴィーグ氏は「干渉はしばしば、論理を欠く」と話す。「バッテリーの供給網に関していえば、自動車メーカーはこの供給網を買い上げたが、(EV走行に必要な高出力・高精度の永久磁石を確保しようと)磁石メーカーとは協力していない」
By Harry Dempsey
(2019年8月20日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)
また、グリーンランドは中国が軍事拠点として狙っているという事情があります。
トランプは中国の軍事拠点化を阻止しようとしたのでしょうけど、何せトランプはやり方がまずいですね。
グリーンランドを売らないのならデンマーク訪問取りやめなんて、アメリカの大統領が言うべき言葉ではありませんね。地上げ屋か悪徳不動産屋が言うような言葉です。
トランプには決定的に品性が欠けているので、もうここまでかなとは思います。
いまここで、デンマークを侮辱して怒らせたなら、一層中国の方に近づかせてしまいます。
グリーンランドのことだけでなく、最近、特に外交的にぶれまくっていて、G7でロシアを復帰させたいなどと持ちかけてドイツのメルケルやイギリスのボリス・ジョンソンに一蹴されたとのこと。トランプ、何をやっているのやら、という感じです。
ただ、トランプでなければ、あの中国の勢いを止めることはできなかったでしょうし、その意味では『神に選ばれし者』なのかもしれません。
トランプが大統領になったときに、私は『毒を以て毒を制する』と書きましたが、やはりトランプくらいの毒がなければここまではできなかったでしょう。
しかしもうそろそろ、賞味期限切れですね。自信を持ちすぎて傲慢の方にぶれてしまっているかも知れません。デンマークに対する反応がそれを表しています。
できれば、このあたりでトランプも熱中症あたりで休んでもらって、ペンス副大統領に大統領代行になってもらうのが私の希望です。