イスラム教の理解なしでは

日本人にとって中東情勢を理解することが難しいのは、ひとつにはアメリカ側の視点でしか見ることができないことと、もうひとつは、イスラム教を全く知らないからだと言えます。

例えば、ニュースで頻繁に目にする『イスラム原理主義』という言葉。

これを聞いただけで、テロ組織や武装組織を連想します。

本来は平和であろうイスラム教の中で、過激になった一派というイメージです。

『原理』という言葉にあまりにも色が付きすぎているのです。

『イスラム原理主義』を過激に暴力に走った極端な一派という理解では、中東は読み解けないと思われます。

本来なら、イスラム根本主義という言葉を当てた方がいいのですが、要は、政治も含めて、イスラムの教えを遵守した社会を目指すということです。

実は、イスラム教信者としては当たり前のことで、コーランに書かれている通りを守っていこうということです。

ですから、どのイスラム教国にも、イスラム原理主義を支持する民衆がいるのです。

 

例えば、エジプトはイスラム教国ですが、スフィンクスがあります。

エジプトの大切な観光資源です。

しかし、これはイスラム教が禁止する偶像崇拝です。

しかし、これを壊しては、貴重な国の財源がなくなりますから、エジプト政府は壊したりしません。

これは、イスラム原理主義からすると、利得のためにイスラム教の教えをないがしろにする『なんちゃってイスラム教』なのです。

もちろん、欧米にすり寄るサウジアラビアもそのように見えています。

 

イスラム原理主義のハマスの理念は、第一段階としてイスラエルを消し去ること、第二段階として『なんちゃってイスラム教国』をすべてイスラム原理主義に変えること、第三段階として世界中をイスラム原理主義にすること、です。

これはハマスだけでなく、イスラム原理主義はすべてそうです。

 

パレスチナのもうひとつの地区を自治するファタハは、欧米に妥協して富を得ているために欧米からはよく思われていますが、パレスチナ住民からは不人気です。

 

もちろん、ハマスが民衆の支持を得ていると言っているわけではありません。

ハマスは選挙で多くの議席を獲得し、ファタハと連立政権を組んだことは確かです。

しかし、その翌年、武力によって、ファタハを排除して、ガザ地区を実効支配します。

これが経緯ですから、民衆がファタハの代わりにハマスを選挙で選んだわけではありません。

 

ただ、イスラム原理主義がイスラム教の中の異端ということではないことを理解しないと、中東情勢を見誤ることになります。

 

 

イスラム教によると、死後の世界は、生きてるときにおこなった善の行為と悪の行為を神様が記録していてそれにしたがって決められる、というもののようです。

その善悪の判断は人間が決められるものではなく、死んだ後に神様が決めるものですから、どの人間も生きている間はとても不安定な状態です。

ところが、はっきりと天国に行くことが決定する行為が一つだけあります。

それが、ジハード(聖戦)で死ぬことです。

この死生観が根本にありますから、ジハードがなくなることはありません。