今年も第九の季節がやってきました。
私は、20歳の時に、フルトヴェングラー指揮のバイロイト盤に出会ってから、その演奏に魅了されてきました。
バイロイト盤があまりにも凄すぎて、生のコンサートで第九を聴いても、どうしてもバイロイト盤と比べて批判的になってしまうほどでした。
バイロイト盤とは、フルトヴェングラーが1951年にバイロイト音楽祭でバイロイト祝祭管弦楽団を指揮した演奏です。
バイロイト盤は世紀の名演と言われているだけあって、これを聴いてカラヤンなどを聴くと本当に気が抜けた炭酸水を飲んだような気になるくらいです。
しかし、去年買った、『フルトヴェングラー 4種の第九』の中に、とんでもない演奏がありました。
4種の第九とは、バイロイト盤以外の、ベルリン盤、ストックホルム盤、ウィーン盤、ルツェルン盤の4つです。
この4つを去年から何回も聴いてみました。
この中のベルリン盤、1942年ベルリンフィルを指揮した盤、これは本当に凄まじい演奏です。
バイロイト盤を完全に超えています。
第一楽章、私が最も好きな楽章ですが、バイロイト盤を聴くといつも冬の夜空の星たちが降り注ぐような感覚になります。
それがベルリン盤では、宇宙そのものが雪崩を起こしているような圧倒的な迫力があります。
第二楽章になるとさらにその勢いが増してきます。比べるとバイロイト盤がおとなしく思えるほどです。
ただ、第三楽章、これはバイロイト盤のほうが優れているような気がします。
批評家は『『1952年ウィーンの第九』はムジークフェラインでのウィーン・フィルとの公演、これは宇野功芳氏が『部分的には「バイロイトの第九」よりも上、彼のベストではないか』と評したように、第3楽章など至高絶美の演奏といっても過言ではありません。』と言っていて、ウィーン盤の第三楽章が絶美などと言っていますが、全く違います。
ウィーン盤では、第三楽章をウィーンフィルが『唄って』います。
それでは駄目なのです。
バイロイト盤では、第三楽章は『瞑想している』のです。
ベートーヴェンの魂は第三楽章でその境地に浸っています。
しかし、ウィーンフィルはそうでなくうまく唄うように音楽を流している。
実はこれもベルリン盤のほうがウィーン盤よりも何倍もいいのですが、このベルリン盤よりも第三楽章においてはやはりバイロイト盤のほうが深みが増しています。
そして、第四楽章、これはもうベルリン盤が圧倒的です。
バイロイト盤では、最後、あまりにもフルトヴェングラーの指揮が速すぎて、バイロイト祝祭管弦楽団が追いついていけずに破綻しています。
これが、さすがにベルリンフィルでは、最後の最後まできっちり鳴らしています。
ベルリン盤はバイロイト盤を超えていると思います。